退職の意思を示し、退職願や退職届を提出したにもかかわらず、会社側から「退職は認めない」と言われるケースは珍しくありません。特に、急な退職や会社にとって重要な時期での退職では、労働者に対して強い引き止めの圧力がかかることがあります。しかし、日本の労働法では、労働者が退職する権利は基本的に保障されており、会社の許可がなくても退職できる場合が多いです。この記事では、具体例も交えながら、退職が認められない場合の対処法について解説します。
「退職願」を出しても「認めない」と言われた場合
退職願は、労働者が会社に対して退職の意思を示すものであり、「退職したい」という希望を伝えるための文書です。会社の承認を得るための書類であり、法的に強制力はありません。このため、退職願を提出しても「認めない」と言われることはあり得ます。
具体例: 引き止められるケース
例えば、Aさんは3年勤務した会社を退職したいと考え、上司に退職願を提出しました。しかし、上司からは「今は忙しい時期だから、辞めてもらっては困る。退職は認められない」と言われてしまいました。Aさんはさらに相談を重ねましたが、会社側は退職願を受け取る気がない様子でした。
対処法
このような場合、退職願はあくまで「相談」であり、強制力がないため、会社側が受け入れなくても法的には問題はありません。次のステップとしては、正式な退職届を提出することが必要です。退職届は労働契約を終了させるための正式な文書であり、これを提出することで、会社側が退職を認めない場合でも、法的に退職する権利が生じます。
「退職届」を出しても「認めない」と言われた場合
退職届は、退職願とは異なり、労働契約を一方的に解約するための文書です。退職届を提出することで、労働者は法的に退職を宣言し、会社の許可を必要としません。しかし、場合によっては、会社側が「退職を認めない」と強く主張し、無視することがあります。
具体例: 退職届が受理されない場合
Bさんは、長時間労働やハラスメントに悩み、退職を決意して退職届を提出しました。しかし、会社の総務部は「このタイミングでは退職を認められない。業務が落ち着くまで待ってくれ」と言い、退職届を受け取ろうとしませんでした。Bさんは、そのまま勤務を続けるべきか迷いましたが、精神的にも限界を感じていました。
法的な対処法
労働基準法と民法627条に基づき、退職届を提出した後、2週間が経過すれば、会社の同意がなくても労働契約は自動的に終了します。つまり、退職届が会社に受理されない場合でも、提出してから2週間経過すれば退職が成立します。会社が引き止める権利はなく、この期間が過ぎれば法的には退職が完了するため、Bさんのようなケースでは、自身の権利をしっかりと主張し、必要に応じて労働基準監督署に相談することが有効です。
就業規則に「退職には会社の許可が必要」と記載してある場合
一部の企業では、就業規則に「退職には会社の許可が必要」「退職は○ヶ月前に申し出なければならない」といった規定が設けられていることがあります。これらの規定は労働者を引き止めるために記載されている場合が多いですが、法律上は無効である可能性が高いです。
具体例: 就業規則に引っかかるケース
Cさんは5年以上勤めていた会社で、退職の意思を固めました。しかし、会社の就業規則には「退職する場合は3ヶ月前に申し出ること」と明記されており、人事部からも「退職は会社の許可が必要」と言われてしまいました。
法的効力
このような就業規則の内容は、民法に違反するため法的には無効となります。日本の労働法では、期間の定めがない雇用契約において、退職の意思を2週間前に通知すれば、退職できる権利が労働者に保障されています。よって、Cさんのように就業規則に縛られている場合でも、法的には2週間後に退職が可能です。
会社が「業務が忙しい」と退職を認めない場合
退職を申し出た際、会社から「今は業務が忙しい時期だから、退職は認められない」と言われることもあります。特に、労働者が重要なプロジェクトや業務に携わっている場合、会社はできるだけ退職を先延ばしにしようとすることがあるでしょう。
具体例: 業務上の理由で引き止められるケース
Dさんは会社の主要プロジェクトに関わっていましたが、家庭の事情で退職を決意しました。しかし、上司からは「今は君が抜けたらプロジェクトが大変なことになる。少なくともプロジェクトが終わるまでは退職を認めない」と言われました。
対処法
会社の業務の都合で退職を引き止められても、労働者は法的に退職の権利があります。業務が繁忙期であっても、2週間前に退職の意思を示せば、退職は成立します。Dさんの場合も、プロジェクトが完了する前に退職できる権利があるため、退職届を提出し、法的な対応を取ることができます。業務引き継ぎが必要であれば、できる範囲で協力することは望ましいですが、それが退職を拒否する理由にはなりません。
退職後の未払い給与や退職金に関する問題
退職が認められないという状況に加えて、退職後に未払いの給与や退職金が支払われないケースも存在します。退職届を提出しても、会社が退職を拒否し、給与の支払いをストップするなどの行為は、違法行為となります。
具体例: 未払い給与が発生した場合
Eさんは退職届を提出し、2週間後に正式に退職しました。しかし、会社からは「退職は認めていないので、給与も支払わない」と言われ、退職後の給与が未払いのままとなってしまいました。
対処法
労働基準法に基づき、退職後に未払いの給与が発生した場合は、会社は法的に給与を支払う義務があります。まずは書面で正式に請求を行い、それでも解決しない場合は、労働基準監督署に相談することが有効です。また、必要に応じて弁護士に依頼し、未払い給与を請求するための法的手続きを進めることも考慮しましょう。
まとめ
退職が認められない場合でも、労働者には法的に退職する権利があります。退職願が受け入れられない場合は退職届を提出し、2週間後には法的に退職が成立します。就業規則に「退職には会社の許可が必要」と書かれていても、それは法的に無効となる可能性が高いです。
業務の都合や会社の引き止めがあっても、労働者の退職の意思は尊重されるべきです。会社が不当な対応を取る場合は、労働基準監督署に相談するか、法的な手続きを考えることが重要です。
退職を決意した場合、冷静に行動し、必要な手続きを踏むことで、スムーズに退職できる可能性が高まります。労働者は、自身の権利を理解し、法に基づいて行動することで、適切に退職を進めることができます。

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