「長年頑張ってきたご褒美に、退職前に残っている有給休暇を消化したい…」
そう思い、会社に有給休暇の取得を申請したところ、まさかの返答が。「え?うちには有給休暇なんて制度はないよ。」
長年勤めてきたにも関わらず、退職間際になって有給休暇がないと言われる。そんな理不尽な状況に直面したら、一体どうすればいいのでしょうか?「そんなことって許されるの?」「泣き寝入りするしかないの?」と、不安と怒りでいっぱいになるのは当然です。
しかし、日本の労働基準法では、一定の要件を満たした労働者に対して、有給休暇を付与することが義務付けられています。会社が一方的に「うちにはない」と主張することは、違法である可能性が極めて高いと言えるでしょう。
この記事では、労働者に与えられた有給休暇の権利、会社が有給休暇を拒否できる正当な理由、そして実際に「うちにはない」と言われた場合の具体的な対抗策について詳しく解説していきます。もしあなたが今、同じような状況に置かれているなら、この記事を最後まで読んで、諦めずにあなたの正当な権利を主張するための一助としてください。
え、有給がない?!会社が有給休暇を否定する理由とは?
会社が退職時の有給休暇申請に対して「うちにはない」と主張する背景には、以下のような理由が考えられます。しかし、これらの理由は法的に正当なものとは限りません。
- 制度の誤解や認識不足: 小規模な企業や、労働法規に関する知識が不足している経営者の場合、有給休暇制度の存在自体を誤解している、または認識していない可能性があります。
- 人手不足による業務への支障: 退職者の有給消化によって業務が回らなくなることを懸念し、有給休暇の取得を妨害しようとする意図がある。
- コスト削減: 有給休暇を取得させると、その期間も給与を支払う必要があるため、コスト削減のために有給休暇の存在を否定しようとする。
- 過去からの悪しき慣習: 過去から有給休暇を付与しないという誤った慣習が続いており、それが当然のことだと考えている。
- 従業員の無知につけ込む: 従業員が労働法規に詳しくないことを利用し、有給休暇の権利を主張しないだろうと見込んでいる。
これらの理由は、いずれも労働基準法に違反する可能性が高く、会社が有給休暇の付与義務を免れる正当な理由にはなりません。
労働者の権利!有給休暇が付与される条件と日数を確認
労働基準法第39条では、使用者は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、原則として10日の有給休暇を与えなければならないと定めています。
その後も、継続勤務年数に応じて、以下の表のように有給休暇の日数は増加します。
継続勤務年数 | 年間の有給休暇日数 |
6か月 | 10日 |
1年6か月 | 11日 |
2年6か月 | 12日 |
3年6か月 | 14日 |
4年6か月 | 16日 |
5年6か月 | 18日 |
6年6か月以上 | 20日 |
また、2019年4月からは、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、年5日以上の有給休暇を会社が時季を指定して取得させることが義務付けられました(労働基準法第39条第7項)。
これらの規定から明らかなように、一定の要件を満たした労働者には、当然に有給休暇が付与される権利があります。「うちにはない」という会社の主張は、これらの法律に真っ向から反する可能性が高いと言えます。
まずは、ご自身の勤続年数と出勤率を確認し、法律に基づいて何日の有給休暇が付与されているはずなのかを把握することが重要です。給与明細や雇用契約書などで入社日を確認し、過去の出勤状況を振り返ってみましょう。
「うちにはない」は違法!会社が有給休暇を拒否できる正当な理由
原則として、会社は労働者が有給休暇を請求した時季に与えなければなりません(労働基準法第39条第5項)。つまり、労働者が希望する日に有給休暇を取得するのが原則であり、会社がこれを拒否できるのは、事業の正常な運営を妨げる場合に限られます(労働基準法第39条第5項ただし書き。これを「時季変更権」といいます)。
しかし、「人手不足で忙しい」「退職するから」といった理由は、一般的に「事業の正常な運営を妨げる場合」には該当しないと解釈されています。会社は、労働者が有給休暇を取得しても業務が円滑に回るように、人員配置を工夫するなどの努力義務を負っていると考えられます。
したがって、「うちには有給休暇はない」という主張はもちろんのこと、「退職するから有給は取らせない」という理由も、法的には非常に弱いと言わざるを得ません。会社が有給休暇の取得を拒否できるのは、本当に差し迫った業務上の必要性があり、かつ代替要員の確保など、他の手段を尽くしてもなお業務に支障が出る場合に限られます。
有給休暇の取得を確実にする!退職前の申請方法と伝え方
退職前に有給休暇を確実に取得するためには、以下の点に注意して会社に申請することが重要です。
- 早めに書面で申請する: 口頭だけでなく、退職日と希望する有給休暇の期間を明記した書面(有給休暇取得申請書)を作成し、会社に提出しましょう。書面で記録を残すことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
- 取得希望日を具体的に伝える: 「〇月〇日から退職日まで」のように、具体的な取得希望日を伝えましょう。
- 就業規則の有給休暇に関する規定を確認する: 会社の就業規則に有給休暇の申請方法や手続きが定められている場合は、それに従いましょう。
- 強硬な拒否には毅然とした態度で臨む: 会社が「うちにはない」などと不当に拒否する場合は、労働基準法の規定を根拠に、あなたの権利を主張しましょう。
- 記録を残す: 申請書を提出した日付、担当者の名前、拒否された場合はその理由などを詳細に記録しておきましょう。
退職間際になって慌てて申請するのではなく、できるだけ早めに申請することで、会社も業務の調整を行いやすくなり、有給休暇を取得できる可能性が高まります。
会社が拒否した場合の対抗策!労働基準監督署への相談
会社が「うちにはない」と有給休暇の存在を否定したり、正当な理由なく有給休暇の取得を拒否したりする場合は、労働基準監督署に相談することを検討しましょう。
労働基準監督署の役割:
労働基準監督署は、労働基準法をはじめとする労働関連法規の違反を取り締まる行政機関です。有給休暇の不付与や取得拒否は、労働基準法に違反する可能性があり、労働基準監督署は会社に対して指導や是正勧告を行うことがあります。
相談する際の注意点:
- 証拠を整理して持参する: 勤続年数を証明する書類(雇用契約書、給与明細など)、有給休暇の申請書、会社に拒否された際の記録などを整理して持参すると、スムーズに相談が進められます。
- 具体的な状況を説明する: いつ、どのように有給休暇を申請し、どのような理由で拒否されたのか、具体的に説明しましょう。
- 労働基準監督署は個別の紛争解決は行わない: 労働基準監督署は、あくまで法律違反を取り締まる機関であり、あなたと会社間の個別の有給休暇取得に関する紛争を仲介したり、解決したりするわけではありません。しかし、違法性が認められれば、会社に有給休暇を与えるように指導してくれる可能性があります。
労働基準監督署への相談は、会社にプレッシャーを与え、有給休暇の取得を認めるように促す効果が期待できる場合があります。
法的手段も視野に!弁護士への相談と有給休暇請求の流れ
会社が依然として有給休暇の取得を拒否する場合や、労働基準監督署の指導にも従わない場合は、法的手段を検討する必要があります。まずは、弁護士に相談し、あなたの状況に応じた法的手段や有給休暇請求の見込みについて専門的なアドバイスを受けることが重要です。
弁護士に相談するメリット:
- 法的観点からの適切なアドバイス: あなたのケースにおける法的問題点や、取りうるべき法的手段について、専門的なアドバイスを受けることができます。
- 会社との交渉の代行: あなたの代理人として、法的な知識に基づいて会社と交渉してくれます。
- 労働審判や訴訟などの法的手続きの代行: 有給休暇の取得を求める労働審判や訴訟などの法的手続きを全面的にサポートしてくれます。
- 精神的な負担の軽減: 法的な手続きを弁護士に任せることで、精神的な負担を軽減し、安心して解決に向けて進むことができます。
有給休暇請求訴訟の流れ:
- 弁護士との相談・委任契約: 弁護士に状況を説明し、訴訟の方針や費用について合意します。
- 訴状の作成・提出: 弁護士が、あなたが有給休暇を取得する権利があること、会社が不当に拒否していることなどを記載した訴状を作成し、裁判所に提出します。
- 会社の反論: 会社が訴状に対する反論を提出します。
- 証拠の提出: あなたと会社が、それぞれの主張を裏付ける証拠を裁判所に提出します。
- 弁論準備手続き・口頭弁論: 裁判所において、双方の主張や証拠を整理したり、意見を述べたりする手続きが行われます。
- 和解の試み: 裁判所が和解を勧める場合があります。
- 判決: 和解が成立しない場合、裁判所が判決を下します。
有給休暇の取得を求める訴訟は、時間や費用がかかる場合もありますが、あなたの正当な権利を行使するための最終的な手段となります。
泣き寝入りしない!退職時の有給休暇取得で知っておくべきこと
退職は、あなたが長年会社に貢献してきた証であり、有給休暇は法律で保障された労働者の権利です。「うちにはない」という会社の不当な主張に屈することなく、毅然とした態度であなたの権利を主張することが重要です。
退職時の有給休暇取得で知っておくべきこと:
- 有給休暇は労働者の当然の権利である: 一定の要件を満たせば、誰にでも有給休暇を取得する権利があります。
- 会社の「ない」は違法である可能性が高い: 会社が有給休暇制度の存在を否定するのは、労働基準法に違反する可能性が高いです。
- 取得拒否できるのは限定的な場合のみ: 会社が有給休暇の取得を拒否できるのは、事業の正常な運営を著しく妨げる場合に限られます。
- 証拠を残し、専門機関に相談する: 有給休暇の申請記録や拒否された際の状況を記録し、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談しましょう。
- 諦めずに、正当な権利を主張する: あなたがこれまで頑張ってきた対価として、堂々と有給休暇を取得しましょう。
退職は、新たなスタートを切るための大切な機会です。未消化の有給休暇は、あなたの貴重な財産です。泣き寝入りすることなく、正当な権利を行使し、心身ともにリフレッシュした状態で次のステップに進めるように、積極的に行動しましょう。
まとめ
退職時に有給休暇を申請したにも関わらず、会社に「うちにはない」と言われた場合、それは労働基準法に違反する可能性が極めて高いと言えます。労働基準法は、一定の要件を満たした労働者に対して、当然に有給休暇を付与する権利を保障しており、会社の制度の有無に関わらず適用されます。会社が有給休暇の取得を拒否できるのは、「事業の正常な運営を著しく妨げる場合」という限定的なケースのみであり、「うちにはない」という主張や「退職するから」という理由は、正当な拒否理由とは認められません。
このような不当な主張に対しては、まず自身の勤続年数や出勤率を確認し、法律に基づいて付与されているはずの有給休暇の日数を把握しましょう。そして、書面で有給休暇の取得を申請し、申請した記録を残すことが重要です。会社が不当に拒否する場合は、労働基準法の規定を根拠に毅然と権利を主張しましょう。
もし会社が依然として拒否する場合は、労働基準監督署に相談し、会社の違法行為を指摘してもらい、指導や是正勧告を求めることを検討してください。それでも解決しない場合は、**弁護士に相談し、法的手段(有給休暇取得の請求訴訟や労働審判)**を検討することも視野に入れるべきです。弁護士は、法的なアドバイスや会社との交渉、訴訟手続きの代行など、あなたの権利を守るために強力なサポートを提供してくれます。
退職は、あなたが長年会社に貢献してきた証であり、有給休暇は法律で保障された当然の権利です。「もう辞めるから…」と諦めて泣き寝入りする必要はありません。不当な会社の主張に屈することなく、証拠をしっかりと残し、必要に応じて専門家の力を借りながら、最後まで諦めずにあなたの正当な権利を主張し、心身ともにリフレッシュした状態で新たなスタートを切れるように、積極的に行動しましょう。
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